最終更新日: 2024/03/18 作成日: 2022/07/19
このページの概要

共同研究をしていたり学生の指導をしていたりすると共著者や学生の書いた文章に対してコメントを求められるものだ. 同じ内容でも,コメントの仕方ひとつで相手に与える印象が大きく変わる. コメントの作法を心得ておくと,無駄に人間関係を破壊せず,スムーズなコミュニケーションが可能となるだろう. ここではそのような作法についてまとめておきたい.

どの段階のコメントをするか決める

英語・日本語によらず,文章には5つの構造がある.単語・語句・文・段落・文脈という構造である. これらの段階があることを認識して,どの段階のコメントをするか決めるべきだろう. 言わずもながだが,単語が最小単位で,一番細かい段階であり,語句,文の順に段階が上がって,文脈が一番大きな構造になる.

コメントの優先順位は,文脈が第一で,それから段落,文と順に下がっていく.「文脈」と言うと伝わりにくいかもしれないが,文章の流れであり,広い意味での論理展開と言える.論理展開が自然でないと,いくら単語や語句について指摘しても無駄になる.

すでに文脈レベルでは合意している場合は,それよりも細かい段落や文,語句や単語についてコメントすればよい.段落についてはパラグラフライティングが出来ているかどうかは第一のチェック項目だろう.つまり段落の1文目にその段落の主張が要約されているかどうか,それ以降の文に新しい重要な情報が出てこないかどうか.

英語の場合,英文校正に出す予定なら語句・単語のレベルのコメントはする必要はないが,文脈や段落レベルでのコメントは英文校正に出す前にコメントしておくべきだ.文レベルのコメントは,コメントする内容に依存する.非専門家である英文校正者が直せないようなものなら指摘しておくべきだろう.

以上のように,どの段階のコメントをするか決めるというプロトコルを作っておくとスムーズな議論や修正に繋がる.

(理想的には,文章を書く前にどういった文脈で文章を書くかを議論して,お互いに合意してから書く方がより手間が省けるが,現実は理想ではない.)

コメントでは,まず褒める,それから具体的な指摘をする

コメントをするとき,まず読んだ印象をポジティブに表現する.まず文章を一通り書いて他人に見せる段階に出来た時点ですごいことなのだ.褒められて当然である.これは文章についてのコメントに限ったことではないが,褒めること(というか評価を明言すること)は大切である.

それから具体的なコメントに入ることになるが,文脈・段落・文のレベルの指摘の仕方についてはプロトコルがある.

  1. 現状では読み手にどのように受け取られるかを説明する
  2. 書き手の意図がどのようなものだったかを確認する
  3. どのように改善すれば書き手の意図と読み手の汲み取る意味の差異が最小になるかを説明する

最低限,1. はコメントすべきだろう.3. だけをコメントするひとがいるが,なぜそう修正するのかが,文章を書いた本人に分からないのでやめたほうが賢明だと思う.

語句や単語のレベルの指摘の場合は,辞書やグーグル検索のヒット数などを示すと納得されやすい.英語の場合,arXivをデータベースにした Hyper Collocation も有用だろう.

バイアスなく文章を読むために

書き手の意図と読み手が汲み取る意味の差異を最小にするために,コメントを求められた文章に対して,真っ新な気持ちで読むべきだ.つまり,共著者や指導者という立場から離れて,初めてその話題に触れるつもりで文章を読むべきだ.そこで,具体的にどうすれば真っ新な気持ちで文章を読むことができるのかについて記しておきたい.

それは,文章の小さい構造である単語や語句を文法にしたがって読んでいくことだ.自分で意味を補完しないということだ.文章を文法にしたがって読める通りに読む.これに尽きる.

コメントを本人に返す前に適切な第三者に相談してもよい

共同研究者や指導において自分より立場が上のひとがいる場合,そのひとに「この部分が引っかかるんですが,どうコメントしたらいいでしょうか」と相談することも有益だろう.自分では指摘しづらいことも,そのひとなら問題なく指摘できることもある.ひとには立場というものがあるのだ.

まとめ

共同研究者などに文章へのコメントを求められたとき,立場を忘れて文章を読み,立場に気をつけながらコメントする.コメントの最初で全体を褒めてから具体的に指摘をする.文脈・段落・文・語句・単語のどのレベルのコメントなのかを明確にする.コメントにおいて文脈が最優先に考慮されるべきポイントであり,それから段落,文と細かくなっていく.

最後に,少なからず労力を割いて書いた文章に敬意を払うことを忘れず,それを表現することが人間関係を無駄に壊さずに,スムーズにコミュニケーションをとるコツだろう.