テイラー展開のカンドコロ

最終更新日: 2013-02-26

古典力学,統計力学や電磁気学,量子力学などでは近似するためにテイラー展開を使うことが間々ある. どうも混乱してしまう学生が少なからずいる模様. 何に気を付けておくべきか,間違えやすいところは何処か分かっていれば,むやみに不安がる必要もなくなると思う. そこで近似するときに気を付けておくべきポイントを2つ紹介する.

1. 何が小さい量なのか?

「原点近傍の電気双極子( $ \pm q $ の電荷が $ d $ だけ離れているとする)のつくる電場は十分離れた位置 $ r $ では」などと言って $ r \gg d $ とする.このとき,何が微少量かと言えば,$ d / r \ll 1 $ から分かるように $ d / r $ なのである.$ d $が微小量だと言うのは間違いであることに注意してほしい.$ d $自体はどんな大きさでも良いのである.決して小さくない値,たとえば$ d = 1 [{\rm m}] $であっても,$ r = 10^{10} [{\rm m}] $なら文句無く$ d / r \ll 1 $なのである.何かに対して小さいとか大きいとか言えても,それ自体には大きいも小さいもないということ.また,$ d \ll 1 $という書き方も気持ち悪いと感じられるようになってもらいたい.$ d $ は距離の次元を持つのに対して,$ 1 $は単なる数でしかない.単位がないのである.これでは,その$ 1 $ が1メートルなのか,1キロメートルなのか,はたまた1ナノメートルなのか定まらない.$ d / r \ll 1 $と表記すれば,それは$ d $と$ r$とが比べられていて,同じ次元の大小関係になっているのである. 以上はまだ分かりやすい例で,少々込み入ったものに,統計力学ではお馴染み(?)の $ \exp(- \epsilon / k_B T) $ のような形をしたものがある.

高温とは$ k_B T \gg \epsilon $の意味であり,低温とはすなわち $ k_B T \ll \epsilon $のことである. それぞれの場合で $ \exp(- \epsilon / k_B T) $ が $ 1 $ に近い量なのか微少量であるかが変わってくる. 無次元量について議論するならば,高温では$ \epsilon / k_B T \ll 1 $ となる.つまり,微少量は $ \epsilon / k_B T $ なのであって,$ \exp(- \epsilon / k_B T) $ は微少量ではなくて $ 1 $ に近い値をとる.逆に低温のときは$ \epsilon / k_B T \gg 1 $ から $ \exp(- \epsilon / k_B T) $ は微少量となる.これをまとめると,

高温($ k_B T \gg \epsilon $)のとき, \begin{equation} \exp(- \epsilon / k_B T) \simeq 1 \end{equation} となり, 低温($ k_B T \ll \epsilon $)のとき, \begin{equation} \exp(- \epsilon / k_B T) \ll 1 \end{equation} である.

2. どの近似式を用いるか?どのオーダーまで残すか?

ほとんど1.と対になっているようなものだが,どれが微少量かハッキリとしたとき,適切な近似を用いなければならない.特に紛らわしい項として $ \log{ 1 - \exp( - \epsilon / k_B T) } $を挙げておこう.何が微少量で,どれを展開すべきか,と考えよう. 繰り返しになるが,高温では$ \epsilon / k_B T \ll 1 $,つまり,微少量は $ \epsilon / k_B T $ だった.よって$ \exp(- \epsilon / k_B T) $ は微少量ではなくて $ 1 $ に近い値をとる.$ \exp(- \epsilon / k_B T) \simeq 1 - \epsilon / k_B T $から, \begin{equation} \log \left[ 1 - \exp \left( - \frac{\epsilon}{ k_B T} \right) \right] \simeq \log \left( \frac{\epsilon}{k_B T} \right) \end{equation} 低温のときは$ \epsilon / k_B T \gg 1 $ から $ \exp(- \epsilon / k_B T) $ は微少量となり,$ \log(1-x) \simeq -x $から \begin{equation} \log \left[ 1 - \exp \left( - \frac{\epsilon }{ k_B T} \right) \right] \simeq - \exp\left( - \frac{\epsilon }{ k_B T} \right) \end{equation} となるのである. 学部で習う電磁気学や統計力学では,打ち消し合わない限りだいたいが最低次までの展開でよく,稀に高次の項を求めなければならない場合がある1

  1. より詳細な議論をするためには,高次の項が当然必要になってくる.学部のときにもそういうものを議論する問題に当たることがある.統計力学の低温展開の4次の項を求めるとか.