最終更新日: 2013/02/26 作成日: 2011/11/09
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古典力学,統計力学や電磁気学,量子力学などでは近似するためにテイラー展開を使うことが間々ある. どうも混乱してしまう学生が少なからずいる模様. 何に気を付けておくべきか,間違えやすいところは何処か分かっていれば,むやみに不安がる必要もなくなると思う. そこで近似するときに気を付けておくべきポイントを2つ紹介する.

1. 何が小さい量なのか?

「原点近傍の電気双極子( ±q の電荷が d だけ離れているとする)のつくる電場は十分離れた位置 r では」などと言って rd とする.このとき,何が微少量かと言えば,d/r1 から分かるように d/r なのである.dが微小量だと言うのは間違いであることに注意してほしい.d自体はどんな大きさでも良いのである.決して小さくない値,たとえばd=1[m]であっても,r=1010[m]なら文句無くd/r1なのである.何かに対して小さいとか大きいとか言えても,それ自体には大きいも小さいもないということ.また,d1という書き方も気持ち悪いと感じられるようになってもらいたい.d は距離の次元を持つのに対して,1は単なる数でしかない.単位がないのである.これでは,その1 が1メートルなのか,1キロメートルなのか,はたまた1ナノメートルなのか定まらない.d/r1と表記すれば,それはdrとが比べられていて,同じ次元の大小関係になっているのである. 以上はまだ分かりやすい例で,少々込み入ったものに,統計力学ではお馴染み(?)の exp(ϵ/kBT) のような形をしたものがある.

高温とはkBTϵの意味であり,低温とはすなわち kBTϵのことである. それぞれの場合で exp(ϵ/kBT) が 1 に近い量なのか微少量であるかが変わってくる. 無次元量について議論するならば,高温ではϵ/kBT1 となる.つまり,微少量は ϵ/kBT なのであって,exp(ϵ/kBT) は微少量ではなくて 1 に近い値をとる.逆に低温のときはϵ/kBT1 から exp(ϵ/kBT) は微少量となる.これをまとめると,

高温(kBTϵ)のとき, (1)exp(ϵ/kBT)1 となり, 低温(kBTϵ)のとき, (2)exp(ϵ/kBT)1 である.

2. どの近似式を用いるか?どのオーダーまで残すか?

ほとんど1.と対になっているようなものだが,どれが微少量かハッキリとしたとき,適切な近似を用いなければならない.特に紛らわしい項として log1exp(ϵ/kBT)を挙げておこう.何が微少量で,どれを展開すべきか,と考えよう. 繰り返しになるが,高温ではϵ/kBT1,つまり,微少量は ϵ/kBT だった.よってexp(ϵ/kBT) は微少量ではなくて 1 に近い値をとる.exp(ϵ/kBT)1ϵ/kBTから, (3)log[1exp(ϵkBT)]log(ϵkBT) 低温のときはϵ/kBT1 から exp(ϵ/kBT) は微少量となり,log(1x)xから (4)log[1exp(ϵkBT)]exp(ϵkBT) となるのである. 学部で習う電磁気学や統計力学では,打ち消し合わない限りだいたいが最低次までの展開でよく,稀に高次の項を求めなければならない場合がある1


  1. より詳細な議論をするためには,高次の項が当然必要になってくる.学部のときにもそういうものを議論する問題に当たることがある.統計力学の低温展開の4次の項を求めるとか. ↩︎